「受注はExcel、金型台帳は紙のバインダー、廃棄ロスは現場の手書きメモ——採算を締めるたびに担当者が残業して集計している」。そんな状態で「どこからデジタル化すべきか」を決めようとすると、議論だけが続いて一歩も進まない。それが樹脂成形・射出成形メーカーの典型的なDXの壁です。
なぜ「業務棚卸し」が先なのか
射出成形の現場では、受注登録から製品出荷まで、ざっと以下の流れが存在します。
受注登録 → 金型割付・段取り指示 → 成形条件確認 → 生産実績記録 → 廃棄ロス記録 → 採算集計(原価計算)
このうち「受注はExcel」「金型台帳は紙」「廃棄ロスは手書きメモ」「採算はVLOOKUPだらけの集計シート」というように、データが複数の媒体にバラバラに存在するケースがほとんどです。
このような状態でいきなり「業務アプリを作ろう」と動き始めると、「どの画面から作るか」「何をマスタにするか」が決まらないまま開発が迷走します。だからこそFS Blueprint(Anomalyの要件定義サービス)が推奨する「棚卸しファースト」のアプローチが有効です。現状の業務を一度フラットに並べ、優先順位を数値化してから設計・開発に入ることで、限られたリソースで最大の効果を得られます。
中小製造業のDX推進においても「スモールスタートによる内製化」の重要性が指摘されているとされています。全業務を一気にシステム化するのではなく、影響度の高い業務から小さく作って回すアプローチが中小製造業のDXを加速させます。
STEP 1|受注〜採算管理の業務フローを一覧表に書き出す
まず半日ワークの前半(約2〜3時間)で、業務フロー一覧表を作成します。Excelでも紙でも構いません。以下の項目を列に立てて、現場担当者と一緒に埋めていきます。
「受注登録」「金型割付」「成形条件確認」「廃棄ロス記録」「月次採算集計」など、工程ごとに担当者名・使用ツール(Excel/紙/口頭)・発生頻度(日次/週次/月次)を記録します。
各業務で扱うデータの「識別子」を明確にします。具体的には受注番号・品番・金型番号・工程マスタID・廃棄ロス数量が最低限の洗い出し対象です。これらが複数の媒体に散らばっている箇所が「統合の優先候補」になります。
受注番号と金型番号が紐づいていない、廃棄ロスが品番単位で集計されていないなど、手作業でデータを繋ぎ直している箇所に赤マークを付けます。ここが業務アプリ化の対象です。
STEP 2|頻度×影響度×属人化スコアで優先順位を決める
一覧表が揃ったら、後半(約1〜2時間)でスコアリングを行います。FS Blueprintのワークショップで使う3軸評価は以下の通りです。
各業務を①発生頻度(1〜5点)・②業績への影響度(1〜5点)・③属人化の度合い(1〜5点)で評価し、合計スコアを算出します。
例:「月次採算集計」→ 頻度2点・影響度5点・属人化5点=合計12点(上位候補)
例:「受注登録」→ 頻度5点・影響度3点・属人化2点=合計10点
Before → After の具体例:廃棄ロス記録と採算集計
現場担当者が手書きメモで廃棄ロスを記録 → 月末に事務担当者がExcelに転記 → VLOOKUPで品番・金型番号と紐づけ → 採算表を作成。この一連の作業に毎月約16時間(2人日)かかっているケースがあります。
現場担当者がタブレット上の「廃棄ロス登録ボタン」をタップ →品番・金型番号・ショット数・廃棄数量を入力 → 「登録する」ボタンで確定 → 自動で採算集計画面に反映。月末の集計作業が16時間→約30分に短縮できるケースがあります。出力ファイル「採算報告書_YYYYMM.pdf」もワンクリックで生成。
スコアリングで12点以上の業務を「フェーズ1」として先に開発対象とすることで、投資対効果の高い画面から順番に内製化を進めることができます。
STEP 3|スコア上位業務を起点にFlowSyncの画面設計・ロードマップを作成する
FS Blueprintのアウトプットは、以下の3点のドキュメントとして納品されます。
棚卸しで洗い出した業務一覧・データ項目・スコア結果を一枚にまとめたシート。社内共有や経営報告にそのまま使えます。
スコア上位業務の入力項目・画面遷移・ボタン配置をラフ設計したワイヤーフレーム。「受注登録画面」「金型割付画面」「廃棄ロス登録画面」「採算集計ダッシュボード」などをFlowSyncで構築する前提で設計します。
フェーズ1(〜3ヶ月)・フェーズ2(〜6ヶ月)のように、どの画面をいつ誰が作るかをタイムラインで整理。内製化担当者がFlowSyncを使って自分で開発するスケジュールとして活用できます。
FS Blueprintは「要件定義から開発ロードマップまでを半日で完結させる」ことを設計思想としています。外部ベンダーへの発注ではなく、自社でFlowSyncを使って内製化するための「設計図」として機能します。
まとめ
- 棚卸しファースト:受注番号・金型番号・廃棄ロス・採算集計がバラバラなまま開発を始めると迷走する。まず業務フローを一枚に書き出すことが内製化成功の条件。
- スコアリングで即決:頻度×影響度×属人化の3軸スコアを使えば「どの画面を先に作るか」を半日のワークショップで数値として決められる。
- FS Blueprintのアウトプットを使う:業務フロー整理シート・ワイヤーフレーム・開発ロードマップの3点セットが揃えば、FlowSyncでの自社内製化をすぐに始められる。廃棄ロス集計16時間→30分のような効果は、優先順位の正しい業務を選ぶことで初めて実現する。