検査はしているのに「追跡できない」と言われる工場が見落としていること
検査台帳には毎日「合格」のハンコが押されている。それなのに、取引先の監査で「このロットの測定値を出してください」と言われた瞬間、担当者の手が止まる——そんな場面に心当たりはないでしょうか。
「検査はしている」のに取引先から追跡できないと指摘される理由
多くの製造業の現場では、検査そのものはきちんと行われています。問題は「検査した記録が、後から辿れる形で残っていない」ことにあります。
現場としては「毎日ちゃんと測っている」という認識がある一方、取引先が求めているのは「特定のロットについて、いつ・誰が・どんな数値で合格と判断したかを、後から第三者が確認できる状態」です。この二つは似ているようで、まったく別の話です。
検査記録の存在と、トレーサビリティ(追跡可能性)が確保された状態は、イコールではないのです。
トレーサビリティ要求とは何を求められているのか:ロット単位で辿れる状態とは
トレーサビリティの実体は、突き詰めると「ロット(製造番号・製造ロット)を軸に、あらゆる記録同士が紐づいていること」です。原材料の受入検査、加工中の中間検査、出荷前の最終検査——これらがバラバラの台帳に記録されていても、ロット番号という共通の鍵でつながっていなければ、追跡はできません。
受入・加工・検査・出荷、すべての記録が同じロット番号で串刺しできる状態。
「誰が」「いつ」「どの工程で」測定したかが後から特定できる。
類似ロットへの影響範囲まで即座に絞り込める体制になっている。
合否だけの記録では答えられない質問:「どれくらい余裕があったか」
「同じ設備・同じ作業者の他のロットは大丈夫ですか?」
取引先の監査や不具合対応で必ず出てくるのが、こうした質問です。検査記録に「合格」の一言しか残っていなければ、これらの問いには一切答えられません。
検査記録は合否の判定結果だけでなく、生の測定値そのものを残しておくべきだという指摘があります。規格値ぎりぎりで合格したロットと、余裕を持って合格したロットは、リスクの観点ではまったく別物だからです。
トレーサビリティに耐える記録粒度:ロット番号・工程・日時・作業者・生の測定値
では、どこまで細かく記録すればトレーサビリティ要求に耐えられるのでしょうか。最低限、次の5項目はセットで残す必要があります。
①ロット番号/②工程名/③検査日時/④作業者名/⑤生の測定値(合否だけでなく実測データ)。この5点が1レコードとして紐づいていることが、後から「辿れる」状態の最低条件です。
紙・Excelの検査記録がトレーサビリティ要求で詰む具体的な場面
Before(紙・Excelの検査記録):検査員が紙の検査票に手書きで測定値を記入し、後で事務担当者がExcelに転記。ロット番号は台帳の余白に書かれているだけで、加工工程の記録とは別ファイル管理。取引先から「このロットのミルシート(検査成績書)を出してほしい」と言われると、複数の紙束とExcelファイルを人力で突き合わせる作業が発生します。
After(業務アプリでの検査記録管理):検査員がタブレット端末で「ロット選択」画面からロット番号を選ぶと、工程名・日時・作業者名は自動で入力欄にセットされ、測定値だけを入力する状態になります。「登録」ボタンを押すと、加工実績データベースと自動で連結。「検査成績書出力」ボタン一つで、ロット単位のPDFファイルが生成されます。
紙やExcelでの検査記録運用が具体的にどこで限界を迎えるかについては、紙・Excel検査記録をタブレットでデジタル化する具体的な手順で詳しく解説していますので、あわせてご確認ください。
検査記録を紐づいた状態にする業務アプリ設計術:タブレット入力から自動連結へ
ロット単位で記録を追跡できる状態を作るには、MES(製造実行システム。工程の進捗や実績をリアルタイムに管理する仕組み)のような業務アプリの導入が有効です。設計の要点は次の3つです。
検査画面を開いたら最初にロット番号を選択・スキャンし、以降の入力項目はすべてそのロットに自動紐づけされる設計にします。
作業者はログイン情報から、日時はシステム時刻から自動取得。手入力させないことで転記漏れ・記入ミスを防ぎます。
加工・検査・出荷の各データがロット番号をキーに自動連結される設計により、二重入力の工程がまるごとなくなり、不具合発生時の原因究明を迅速化できるとされています。
取引先からトレーサビリティ確保が取引条件として提示されるケースは増えており、「検査成績書を10年出せる体制」を築けているかどうかが、取引継続の判断材料になりつつあります。紙とExcelの運用のままでは、この要求に応え続けるのは難しくなっていくでしょう。
まとめ
- 要点1:トレーサビリティとは、ロット番号を軸に検査記録同士が紐づいている状態を指す
- 要点2:合否だけでなく生の測定値を残すことで「どれくらい余裕があったか」に答えられる
- 要点3:タブレット入力と自動連結の仕組みにより、転記工程と二重入力の工程を減らし、検査成績書をいつでも出せる体制を作れる
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