「このロットのクレームです、原材料の受入日と担当者を教えてください」——取引先からの一本の電話に、検査記録の紙束を何時間もめくり続けた経験はないでしょうか。記録は確かに残っているのに、欲しい情報にたどり着けない。これは多くの製造業が抱える品質記録のトレーサビリティ設計の問題です。
クレーム対応で「該当ロットが特定できない」が起きる理由
トレーサビリティとは、製品がいつ・どこで・誰によって作られ、どんな原材料や工程を経て出荷されたかを追跡できる状態を指します。記録そのものは各工程で作成されていても、それらがロット番号という共通の軸で紐付いていない場合、追跡は事実上不可能になります。
受入記録は紙の伝票、製造記録は日報、検査記録はExcelというように、フォーマットも保管場所も異なると、ロット番号を手がかりに横断検索することができません。
工程担当者が独自の書式でロット番号を記入していると、同じロットのはずが表記ゆれで別物として扱われ、システム上でも人手でも突き合わせができなくなります。
作業日時や検査結果は残っていても、担当者名が空欄・略称のままだと、是正措置の際に確認すべき相手にたどり着けません。ISO9001では是正処置として不適合の原因を除去し再発防止することが求められており、そのために品質記録の適切な管理が重要とされています。
トレーサビリティに必要な記録項目の設計思想
トレーサビリティを機能させる記録項目には、共通して押さえるべき6つの軸があります。これらを工程横断で統一しておくことが設計の出発点です。
作業者・検査者の氏名または社員コードを、略称ではなく一意に特定できる形式で記録します。
作業開始・終了日時を工程単位で記録し、後から時系列で並べ替えられるようにします。
受入・加工・検査・出荷など、工程名を統一コードで管理し、記録同士を突き合わせやすくします。
原材料ロット番号と製品ロット番号を同一体系で採番し、工程をまたいでも同じ番号で追える状態にします。
使用設備・治具の識別番号を記録し、設備起因の不具合が発生した際に該当ロットを逆引きできるようにします。
検査値・合否判定・環境条件(温度・湿度など)を数値で残し、単位を統一して記録します。
原材料受入〜製造〜検査〜出荷までの記録項目マッピング
実際にどの工程でどの項目を残すべきか、最低限のマッピングを整理すると次のようになります。
原材料ロット番号/供給元名/入荷日時/受入担当者/数量/外観検査結果
製造指図番号/使用原材料ロット番号/作業日時/使用設備番号/担当者/環境条件(温度・湿度)
検査項目/測定値/判定基準/合否判定/検査担当者/検査日時/使用測定機器番号
出荷ロット番号(製造ロットとの紐付け)/出荷日時/出荷先/出荷担当者/梱包・数量確認結果
この4工程を貫くのが「ロット番号」という識別記号です。受入から出荷まで同じ体系のロット番号で紐付けられていれば、クレーム発生時に該当ロットの原材料・作業者・検査結果を一度に呼び出せます。
記録項目設計でよくある抜け漏れチェックリスト
温度を℃と華氏、重量をkgとgで混在させると、集計・比較時に誤読が生じます。
「A」「田」など省略記入は後日の追跡を困難にします。氏名または社員コードでのフルネーム記録を徹底します。
付番ルールを文書化していないと、担当者ごとに書式が変わり、システム上の検索キーとして機能しません。
記録項目そのものは正しくても、紐付けの軸(ロット番号)が揺れている限り、トレーサビリティは成立しません。項目設計は「何を書くか」以上に「どう繋げるか」が重要です。
紙・Excel運用のままでは項目が揃わない理由
紙の帳票やExcelでの管理は、担当者ごとに記入欄の解釈が変わりやすく、単位表記やロット番号の書式が現場ごとにばらつきがちです。さらに、受入・製造・検査・出荷の記録がそれぞれ別のファイルや帳票に分散していると、転記のたびに入力ミスや記入漏れが発生するリスクも残ります。
担当者名は、誰が見ても特定できる形で残っているか?
タブレット入力による帳票電子化では、ロット番号を選択式にして表記ゆれを防ぎ、担当者情報を入力画面のログイン情報から自動で紐付けることができます。検査結果の入力画面で「登録」ボタンを押すと、受入記録・製造記録と同じロット番号で自動的にデータが連結され、転記工程そのものが1本減ります。検査帳票を電子化した具体的な設計事例は、検査帳票の電子化事例で詳しく解説しています。
単位や担当者名の入力欄をあらかじめプルダウンや自動補完で統一し、ロット番号を工程間で自動継承する設計にすることで、記録項目は「揃っているが繋がらない」状態から「揃っていて即座に追える」状態へと変わります。
まとめ
- クレーム時に該当ロットが特定できないのは、記録の有無ではなく記録項目の紐付け構造に原因がある
- 誰が・いつ・どの工程・どのロット・どの設備・どの結果の6軸を工程横断で統一設計することが、トレーサビリティの土台になる
- 紙・Excel運用では単位不統一やロット番号の付番ゆれが避けられず、タブレット入力+自動紐付けによる帳票電子化が現実的な解決策となる
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